約 1,076,757 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/81.html
起き上がった男から名前を聞き出そうとルイズがため息混じり男に問う 「はぁ・・・何で平民なんか・・・あんた名前は?」 「・・・・・ザ・グレイトフル・デッドッ!!」 「ザ・グレイトフル・デッド?・・・変な名前」 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ だが、プロシュートがその名を叫んだ瞬間周辺の空気が変わる。 しかし、今の時点でその微妙な違いに気付くものはいない。 「ふぅ~ん、これがゼロの使い魔か」 「平民の割りに妙な格好してるな」 と、プロシュートを近くに見に生徒が数人こっちにやってきた。 「ちょっと俺にもよく見せてくれよォ~~~」 「あ?こんな近くで見えないってお前何時から近眼になったんだ?」 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 「だからさぁぁぁぁよく見えないんだよぉぉぉぉ目がかすんでよく見えないんだよぉぉぉぉぉぉ」 「ひ、ひぃぃぃ、一体どうなって・・・・」 「俺の髪がぁぁぁぁぁぁどんどん抜けていくよぉぉぉぉぉぉ」 「こ・・・これは皆・・・・『と・・・年をとっている!!』」 この場で唯一老化していないルイズがコルベールの方へ振り向く。 しかし、その瞳に映ったものは枯れ木のように朽ち果てていく教師の姿ッ! (まさか・・・まさかこれはあの男がやってる事なの!?) まだ比較的老化が進んでいない生徒達が半狂乱になりながら召喚したばかりの使い魔に命ずるッ! 「あ・・・あの平民を攻撃しろぉぉぉぉサラマンダーーーーー!!」 だが、その召喚したての使い魔は動かない。 いや、動きたくても動けない。 何故ならサラマンダーもスデに老化しきって死に掛けの状態だったからだッ! 彼らがグレイトフル・デッドの高い熱を持つ生物程老化が早いという 性質を知っていればサラマンダーをけしかける事も無かっただろうが彼らにはそれを知る由もない。 そして、サラマンダーという高熱を持つ生き物を呼び寄せた事によりその周辺の老化速度が一層早くなるッ! 「おおごおおおおおおおっ」 その阿鼻叫喚とも言える状況をプロシュートは『養豚場の豚』を見るかのような冷静な目で見ている。 だが、すぐさまその状況における異変を見つける。 (何だ・・・?あの女、何故オレのグレイトフル・デッドの能力下にありながら老化しやがらねぇ!?) 男女の違いで体温の上昇差を区別し老化の速度に違いが出るグレイトフル・デッドとはいえ全く老化がないというのはプロシュートにとってはありえない事だった。 (氷を持ってるわけでもねぇ・・・・それに、この快晴で氷一つ持ってたとこで老化が止まるはずがねぇ!) ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 明確な殺意を持ちプロシュートがルイズに近付いていった。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1183.html
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど…洗濯ってどこでやればいいの?」 「はい?」 ~奇妙なルイズ 空条徐倫の場合~ シエスタはテーブルクロスを両手で抱えながら、先ほど声をかけてきた女性『空条徐倫』と一緒に洗濯場へと歩いていた。 「ルイズ様が平民を呼び出してしまったと、厨房でも噂になっていましたよ」 「あー、そうなの?」 徐倫は苦笑いしながら、このハルケギニアに召喚された瞬間を思い返した。 『来いッ!プッチ神父!』 加速し続ける時間の中で、父も、友も、自分に求婚してきた男も、皆バラバラに切り裂かれて散っていった。 自分自身の体からも血が流れ出て、体が冷たくなっていくのが分かる。 エンポリオ少年に最後の望みを託し、ほんの一瞬、時間が加速し尽くす直前に、千分の一秒だけでも時間稼ぎをすべく、空条徐倫はプッチ神父の前に立ちはだかった。 そして無惨にも五体をバラバラに切り裂かれ、意識が虚空に消えていったのだ。 (目が覚めたらファンタジーの世界?何の冗談?それとも夢?) 今自分が生きていることに感謝すればいいのか、それとも取り残されたエンポリオを心配すべきなのか。 徐倫の思考は、召喚されてからずっとループし続けていた。 「…夢じゃないのね」 「え?」 「あ。何でもないわよ、こっちの話」 徐倫が空を見上げる、その仕草を見て察したのか、シエスタは話を変えることにした。 「トリスティンは自然に溢れていて、住みよい所ですよ」 「ありがと、確かに空気は美味しいわね」 昨日ルイズから聞いた話では、元の世界に返す魔法なんて存在しないし、使い魔を呼び出すゲートを開く『サモン・サーヴァント』は使い魔が死ななければ唱えられないと言う。 ちょっとだけふて腐れていた徐倫は、シエスタの言葉を短く返した。 徐倫が慣れない洗濯をしている頃、ルイズはキュルケ達と共に授業を受けていた。 疾風のギトーが、相変わらず『風の魔法こそが最強である』と、慢心に満ちた講義をしている。 そこでルイズが手を挙げて質問した。 「先生、質問があります」 「なんだね…君が質問とは珍しいな、まあいい、言ってみたまえ」 「エア・ニードルとエア・カッターでは、どちらが強力なんですか?」 ギトーは、思いがけない質問に数秒ほど考え込むが、生徒達に言い聞かせるように答えた。 「面白い質問だ、いいかね、両方とも風の刃であることには違いないが…」 呪文を詠唱し、小さなつむじ風でノートのページを何枚か宙に浮かせる。 「エア・カッターは風の刃だ、目に見えぬ鋭い刃が、広い範囲に展開される」 ギトーの前後左右にばらまかれたノートがの紙が、空中で切り裂かれる。 「エア・ニードルは密度の高い風の刃を作り、我々メイジの杖を、名だたる魔剣よりも鋭い刃とする」 ギトーは宙に舞う紙切れに杖を当てる、すると紙切れはバリバリッと音を立て、跡形もなく散った。 「このように、どちらが強力か議論しても意味はない、使いどころが違うのだ」 何人かの生徒は納得したように頷くが、ルイズは更に質問した。 「…では、エア・カッターで起こした竜巻に、エア・ニードルを付加することは考えられますか?」 そう言われてギトーは言葉に詰まる。発想はともかく、そんなシチュエーションはなかなか考えられないからだ。 「考え方は悪くはないが、効率が悪い、水の魔法を重ねたウインドウ・アイシクルの方が効率は良いな」 「そうですか…ありがとうございます」 「どこからそんな発想が出てきたのだね?」 「いえ、ちょっと思いついただけです」 「ユニークな使い方を思いつくのは結構だが、その前に魔法を使えるようになって欲しいものだな」 ギトーの言葉に苦笑いするルイズ、魔法云々は仕方がないとしても、まさか魔法衛士隊の隊長に殺されそうになりましたとは言えない。 (スタープラチナはエア・カッターでは傷つかないけど、エア・ニードルなら傷つく…)ルイズ苦笑いしつつも、自分の『スタープラチナ』の能力を分析していた。 しばらくすると授業終了の鐘が鳴り、本日の授業が終わった。 「ルイズ、あんた明日はどうするの」 キュルケが声をかける、明日といえば虚無の曜日だ。 「明日?」 「あんたの使い魔、服とか買ってあげなきゃいけないんでしょ?」 「あ、そっか」 「それにしてもルイズには驚かされるわ、やっと召喚したと思ったら平民を召喚するなんて、始祖ブリミルもビックリよ!」 「うっさいわね!」 思わず声を荒げるルイズ。 やっとの事で召喚したのが平民、しかも女性。 中庭で召喚してしまったため当日のうちに全校生徒に知られてしまった。 しかも、コルベール先生も召喚の瞬間を目撃していたので、言い逃れも出来なかった。 コントラクト・サーヴァントを余儀なくされ、ファーストキスは同姓に…思い出す度にブルーになる。 「怒らないでよ、明日はタバサが町に用事があるって言うから、シルフィードに乗せて貰いましょ」 ルイズは悩んだ、シルフィードに乗せて貰うのは嬉しい、しかし他人の使い魔に乗せて貰うのは癪だ。 メイジの実力を見るには使い魔を見ろと言われるが、平民を召喚した自分と、風竜を呼び出したタバサの実力差を見せつけられてしまう。 と、考えたところで、タバサの用事というのが気になった。 タバサは読書の虫と言われる程、読書が好きで本を手放さない、休日は部屋に引きこもって印象がある。 「タバサの用事って何かしら」 「入荷日って言ってたけど」 「何の?」 「さあ」 明日になれば分かるだろうと、キュルケが話を切り上げて食堂に向かった。 ルイズは徐倫を呼びに部屋に戻ると、徐倫が取り込んだ洗濯物を畳んでいるところだった。 「徐倫!夕食の時間よ、あんたも食堂までついて来なさい」 やれやれと言いたげな表情で、徐倫がルイズの後をついて行く。 ルイズ達が食堂に着くと、奥の給仕口からシエスタが顔を出すのが見えた。 「ルイズ様、徐倫様の分もお食事を準備させて頂きますが、皆様と同じものでよろしいのでしょうか」 シエスタに徐倫を紹介しようとしたところで、逆にシエスタから声をかけられ、ルイズは驚いた。 「あー、悪いけどこんな豪勢なの食べられないわ、厨房でまかないの料理でも分けて貰える?」 「それでよろしいんですか?では徐倫様、こちらへどうぞ」 「ありがと、あ、さっきも言ったけど徐倫で良いわよ、様なんて付けられるのは苦手なの」 シエスタと徐倫が普通に会話しているのを見て拍子抜けするルイズ、そこで思わず徐倫の肩を掴んでしまった。 「ちょっ、ちょっと待ちなさい、何私を置いて話を進めてるのよ、って言うか何でシエスタが徐倫の事知ってるの?」 昨日と今朝は厨房から分けて貰ったパン(日持ちする固い奴)を徐倫に渡しただけで、徐倫を食堂には連れて行っていない、シエスタとは面識がないはずだ。 「洗濯場はどこかと聞かれたんです」 シエスタが笑顔で言う。 「あ、そ、そうなの、それじゃ徐倫はまかないを分けて貰いなさいよ」 「そうさせて貰うわ」 ルイズの想像では ルイズ『使い魔とはいえ人間に餌を食わせるわけにはいかないわ、一人分の料理を追加して頂戴』 徐倫『ルイズ…田舎から出てきた私をそこまで気遣ってくれるの?』 シエスタ『わあ、ルイズ様は貴族の鏡でいらっしゃいます!』 …と、なるはずだったのだ。 「ではルイズ様、食事が終わる頃、こちらに徐倫様をお連れします」 有能かつ気の利くご主人ざまを演出しようと、穴だらけの計略を用いたルイズは、肩を落としてため息をつきつつ、手招きするキュルケの元へと歩いていった。 「ルイズ様…疲れてるんでしょうか…」 「くだらないことでも考えてたんじゃないの」 「まあ」 シエスタは、徐倫のぶっきらぼうな態度に驚いた。 閑話休題。 食事を終えると、徐倫がシエスタに連れられてルイズの元へとやってくる。 ルイズの近くに座っているのは、キュルケ、タバサ、ギーシュ、モンモランシー、平たく言えばいつものメンバーだ。 「やあ凛々しいお嬢さん、ルイズに召喚されたとは災難だね」 「災難よ」 徐倫はギーシュの言葉に素っ気ない返事を返した、ルイズはそれが気に入らないのか、少し唇を尖らせると。 「あんたねえ、使い魔なんだからもうちょっと使い魔らしい事言いなさいよ、例えば…」 「『ゼロのルイズに召喚されて光栄です』」 「そうそう、ゼロの…ってちょっと待ちなさいよ今言ったの誰!?」 どこからか聞こえてきた声が、自分を侮辱する内容だったので、ルイズは立ち上がって周囲を見た。 別のグループがルイズ達を嘲笑の目で見ながら、食堂を出て行った。 おそらく彼らが言ったのだろう。 「…あー、そういえば聞きたかったんだけど、さっきから何度か『ゼロの使い魔』って言われるのよね、ゼロって何?あだ名?」 徐倫の何気ない質問に全員が固まる、ルイズは一瞬の硬直の後、ハァーとため息をついた。 「ま、ここで話すのもなんだから、皆でルイズの部屋に行きましょう、アフターディナーティーも悪くないわ」 キュルケが提案すると、ルイズ以外の皆が頷いた。 「ちょっと待ちなさいよ、なんで私の部屋なの」 「だって貴方、授業に出てたんだから、その使い魔さんにトリスティンのことを何も教えてないでしょ?」 「そりゃそうだけど…」 ワゴンを押して食器を片づけていたシエスタが「後ほどお菓子をお持ちします」と言ったのをきっかけに、皆はルイズの部屋へと歩き始めた。。 途中、空に見える二つの月を見て、徐倫は考える。 プッチ神父はどうなったのだろうか、この世界は神父が望んだ世界なのか? エンポリオは?アナスイは?エルメェスは?そして…父は… 「徐倫、何してるの、行くわよ」 「はいはい、ご主人様」 考えても仕方がない。今はとにかくこの世界の情報収集に努めようと頭を切り換えて、徐倫はルイズの後をついて行った。 目次
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2273.html
その日の夜。 ルイズは悩んでいた。 風呂に行ってて部屋にいない使い魔のことで悩んでいた。 どのくらい悩んでいるかと言えば、ベッドの上であーうーと唸ったりごろごろ転がったり枕をかぶって足をジタバタさせるくらい悩んでいた。 ジョセフは有能だった。頭はよくて話し上手で強くて、波紋やハーミットパープルまで使える。使い魔としては申し分のない大当たりだった。欠点と言えば、父親よりも年上の老人で感覚の共有が出来ないくらい。 けれど有能なのも問題がある。 クラスメイトや平民の使用人から満遍無く好感を持たれているのもいいとしよう。見た目が不気味で他人から嫌悪されるよりは、笑顔を向けられる使い魔の方がいいに決まってる。 「……それにしたって限度があるわよ。最近、ジョセフに向けられる笑顔がイヤに増えてるわ。皇太子殿下や王女殿下から笑顔を向けられるのはいいのよ。それだけの働きを成し遂げられる使い魔だということだもの。 ただなんだ。ちょっと最近若い女からの笑顔がえらく増えてないかしら。 色ボケツェルプストーが色目を使うのは今に始まったことじゃあないわよ。だがだ。アルビオンから帰ってきてから色目の質が変わったのはどういうことよ。他の男どもにあんな情熱的な色目を向けていた記憶なんかないわよ。 あの黒髪のメイドもそうよ。あの決闘騒ぎでジョセフに助けてもらってからというもの、それこそ毎日擦り寄ってきてるわ……食事抜きの罰が全く効果ナシだったのも、あのメイドがいそいそと食事を運んできたからじゃない! モンモランシーだってそうよ。あのアホのギーシュとヨロシクやってるクセして、何かしら理由をつけてはジョセフに近付いて来てる様な気がするわ……。まさかギーシュからジョセフに乗り換えようとかそんなハレンチな企みがあるんじゃないでしょうね!?」 ぶつぶつぶつぶつと独り言が口から洩れていることすら気付いていない。ルイズの頭の中では洩れた思考の数倍のあらぬ考えが浮かんでは消えを繰り返していた。 どれくらいあらぬ考えかと言えば、常日頃ギーシュといちゃいちゃバカップルっぷりを見せびらかしているモンモランシーにさえ疑いの目を向けるくらいあらぬ考えだった。 「けど何が一番気に食わないって、ご主人様が側にいるのにあのジジイったらあーそりゃもう他の女が近寄って来たらデレデレ嬉しそうな顔して! アンタ孫もいる妻帯者だって言ってたんじゃないの! しかもなんだ。孫は17歳とか言ってたな。孫より年下のコドモの色香にメロメロか! どれだけ節操がないのよ! いい年してどんなに色ボケなのよ!? 首輪の綱をしっかり私が掴んでるからまだどうにかなってるけど、ちょっとでも手から離してしまったらどうなるかなんて考える前から腹立たしいわ!」 暴走したルイズの思考と、良く言えば若々しく率直に言えば子供っぽいジョセフの日頃の行いのハーモニーが、ルイズの思考を宜しくない方向へ加速させ続ける。 「――大体使い魔があんなにフラフラするかしら!? 他の使い魔はもっとほら、ご主人様好き好き好きーとかそういう感じじゃない!? なのにあのボケ犬ってば他の女にすーぐ鼻の下伸ばすのよ!?」 体の中から沸き上った激情に駆られたルイズは、両手で鷲掴みにした枕でシーツをぼふぼふぼふと乱打する。しばらくそうやっていれば当然腕が疲れるので、埃舞い散る枕をぽいと投げ捨てた。 「どういうことかしら、これは。由々しき問題だわ。 これは何が原因か。胸か。やはり胸なのか。いや待て、モンモランシーはそんなに大きくないわ。むしろ私と同じくらいだわ。胸じゃないのかしら。胸じゃないとしたら何が原因だというの。ちっとも判らないわ……」 答えの見えない思考の迷宮で彷徨うルイズの脳裏に、不意にアンリエッタの言葉が蘇った。 『――ああルイズ。ルイズ・フランソワーズ……忠誠には報いるところがなくてはならないのよ――』 その時ルイズに電流走る――! アンリエッタから与えられ、自分の指にはまっている水のルビーを見た。 アルビオンでの任務に当たった自分の忠誠に対して、こんな高価な宝物を頂いた。だが自分以上に奮闘したジョセフに対して、自分は何も与えていない。 王女殿下が臣下の忠誠に応えていると言うのに、その臣下が有能な使い魔に対して何も応えていないと言うのは、王女殿下の顔に泥を塗るような真似ではないだろうか。 「……でも、今のジョセフに何を報いたらいいのかしら」 食事は主人と同じもの。雑用もそんなに言い付けてはいないし、基本的に不自由な生活はさせていないはず。むしろジョセフが自分が待遇に関して不満を訴えたことがあるだろうか、と考えてみて、特になかったことに気が付いた。 『こんな可愛いご主人様の下で働けるんじゃ。老いぼれにゃ過ぎた幸せということじゃよ』とは言っていたが、それはそれこれはこれ。 「……ジョセフはどうにも隠し事をするタイプだから……言ってるコトが全部本当だと思うのは危険だわ……」 考えてみれば、ジョセフはちょくちょくルイズに対して嘘を言っていた。 召喚されたばかりの頃はボケ老人のフリをしていたし、アルビオンの時だって早々とワルドが裏切り者だと気付いていたのにそれを主人に告げたのは、ワルド本人が裏切りを宣言した後。 正体がバレた後もハーミットパープルを披露したのは少し時間が経ってからだった。 アルビオンの事だって、あれやこれや聞きたがるクラスメイト達を言葉巧みにはぐらかす弁舌を考えれば、果たしてジョセフはどこまで本当の事を言っていてどこまでが嘘なのか判断すらつかなくなってくる。 「あああああああ! なんで使い魔のことでこんなに悩まなくちゃいけないのよ!」 学園にいる多種多様なメイジの中で、使い魔との関係に悩むメイジはたった一人しかいないだろう。従って誰にも相談出来ない問題と言うのもルイズの焦りを加速させる。 そもそもジョースターの血統に連なる人間は危機的状況に陥った場合、親しい人間に自分の本心を隠す傾向がある。ジョセフの祖父ジョナサンも、父ジョージ二世も、母エリザベスも、娘ホリィも、孫の承太郎も、息子の仗助も。 何かしらの危機に際して立ち向かう時、危険に晒されるのは自分だけでいいと考え、親しい者には何も教えないまま……という傾向が強く見られる。 そんなジョースターの血統を色濃く受け継ぐジョセフも、魔法を持つルイズに対してはそれなりに本心を打ち明けている方だった。打ち明けている方なのだが、日頃の大嘘っぷりが信用を損なってしまうという……まあ言ってみれば自業自得と言うやつである。 「あああああ、私にもハーミットパープルさえあれば……! ジョセフの考えてることなんか全部つるっとまるっとお見通しなのに……!」 そしてまたベッドの上で仰向けになって足をじたばたさせる光景が繰り返された。 しかし、不意にルイズの足の動きがぴたりと止まる。足を止めたルイズの視線が、部屋の隅に広げられているボロ毛布に向けられていた。 (ああっ……! そうか、これよ、これだわ……!) 忠誠に報いるべき点が見つかった。 しかし本当にやっていいのかどうか。考えれば考えるほど危険なイメージが浮かばないこともない……が、その不安は指にはまったルビーを見ることで和らげる。 「……しっかりしなさい、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール……こ、これは……忠実な使い魔に対する御褒美なんだから……それ以上のことなんかないんだから……!」 はぁぁぁぁぁぁぁぁ、と波紋呼吸にも似た深呼吸をしながら、意を決してクローゼットに向かうとネグリジェを取ってベッドに戻る。そしてジョセフが戻ってこないうちに着替えてしまおうとボタンを外し、ブラウスを脱ごうと袖から腕を抜き始めたその時。 「帰ったぞー」 外でタイミング計ってたんじゃね? というくらい見事なタイミングでドアを開けて帰ってくる使い魔。 「ひ」 引き攣った悲鳴になりかけた音が口から洩れた次の瞬間、左手で素早く胸を隠し、右手で掴んだ枕を即座にジョセフ目掛けて投げ付けた。 「うお! 何すんじゃルイズ!」 「あ、あああああああんたレディの着替え中にノックもしないで入ってくるとかどういうことよ!?」 「いや待て、ちょっと前までわしに着替えさせてたじゃろ!」 「問答無用! いいって言うまで外に出てなさいよ!」 ルイズが杖を手に取ったのを見て慌てて部屋から出て行くジョセフ。 ジョセフはまたもどっぷり落ち込んで壁に凭れ掛かった。 ホリィがルイズと同じ年頃の時は、他の思春期の少女によく見られる、父親を嫌悪する様子はなかった。むしろベタベタと甘えてきたし、ジョセフもそれが当たり前だと思っていた。 十年振りに会った途端に義手の指を抜き取る、反抗期とか中二病とかそんなチャチなもんじゃないもっと恐ろしい孫は問題外として、世間並みと言える反抗期を初めて体験するジョセフには非常に辛い経験だった。 「わしが一体何かしたんか? 最近ルイズが冷たい……」 ジョセフとしては依然変わりなく小生意気で可愛い孫の世話をしているはずなのに、その孫が見せる反抗期っぷりにずっしり落ち込んでいた。 「……入ってもいいわよ」 躊躇いがちに聞こえたルイズの言葉があってから少々間を置いて、ジョセフは部屋に入る。ネグリジェ姿のルイズが、窓から差し込む月明かりに照らされていた。 ルイズはぷいと顔を背けながらも、部屋に入ったジョセフに向けてブラシを差し出す。 「……ほら、髪、梳きなさいよ」 着替えは見せないくせに髪は梳かせる不可解さにジョセフは首を傾げたが、それに言及するとまた怒鳴りそうなので、大人しくブラシを受け取って髪を梳いてやる。 艶やかな桃色のブロンドを梳き終わると、ルイズはベッドに横たわった。 机の上のランプに向かって杖を振ると、明かりが消える。持ち主の合図で付いたり消えたりする何という事はない魔法のランプだが、これでも随分と高価なものである。 窓から差し込む月明かりがほのかに部屋を照らす中、ジョセフはいつものように部屋の隅の毛布へ向かって歩いていく。 「――ねえ、ジョセフ」 髪を梳かせていた時から言うタイミングを逸し続けていたルイズだったが、喉の半ばで詰まっていた言葉をやっとの思いで吐き出した。 「どうした、ルイズ」 立ち止まって振り返るジョセフを見つめ、また喉につかえかけた言葉を懸命に続けた。 「い、いつまでも床ってのはあんまりだわ。だから、その、ベッドで寝ても……いいわ」 「は?」 思わずジョセフが聞き返した。 「か、勘違いしちゃダメよ! 床の上で寝てるのが可哀想だって思っただけなんだから! ヘ、ヘンなこととかしたら追い出すんだから!」 時折妙な行動を取りがちなルイズだが、今夜は一際奇妙だった。 相手のこれまでの行動や言動を把握して次に言うセリフの予言さえ簡単に出来てしまうジョセフでも、ルイズの次の言葉を予測するのは至難の業だった。 ベッドの端で毛布に包まって丸くなっているルイズの後頭部に向かって声をかける。 「いや、そりゃー床の上よりベッドの方がいいけどなァ。本当にいいんか?」 「いいって言ってるじゃない。何度も同じこと言わせないで」 こういう場合に遠慮しないジョセフは、それ以上は特に聞かずベッドに上がり込む。 枕が空いてるので遠慮なく頭を乗せ、ベッドが広々と空いてるので大の字に寝る。 「……寝てもいいって言ったけど。ご主人様より占有面積が多いってどういうことよ」 毛布からちょこりと頭を出し、我が物顔に寝転ぶジョセフを睨む。 「ああお構いなく」 「構うわよ! このベッドは誰のベッドだと思ってるのよ!?」 「それならそんな端っこで丸まってないでお前も遠慮なく手足を伸ばせばいいじゃろ。わしとお前の二人なら十分に大の字で乗れるぞ」 「……なら枕返しなさいよ」 「ん? んじゃこうすりゃいいんじゃないか」 ルイズが反応する間もなく、ジョセフの手がルイズを抱き抱えたかと思うとそのまま自分の横に引き寄せた。 「え?」 ルイズの頭が何かに乗せられた。普段使っている枕に比べて固くて高いが、頭の据わりはいい。 「え? え?」 頭を横に動かしてみる。 すると、ジョセフがすぐ真横にいる。 「え? え? え?」 ジョセフの腕がルイズの頭の下に、ルイズの頭がジョセフの腕の上に。 「え……えぇーっ!?」 つまり腕枕の形になっていた。 「あ、ああああああああああんたいいいいいいいいいいったいなななななななななにを」 今の自分がどんなことになっているか気付いたルイズは、間違いなく自分の顔から火が出ているとしか思えなかった。 「何って腕枕じゃが」 「いいいいいいいいいやそそそそそそそそそういうもんだいじゃああああ」 (昔はちい姉様によく添い寝してもらったけれど、それでも腕枕だなんて。それも、こんなおっきい男だなんて。いくら使い魔だからってここここここここれは) 「ふぁぁぁ」 思考が暴走しかけたルイズを引き止めたのは、暢気な欠伸だった。 ルイズに腕を貸したジョセフが早々と意識を手放そうとしているのを見て、これまでの躊躇いとか逡巡が全部無駄だったことに気付いた。 と言う訳でとりあえず。 「おふっ」 何のいわれもなく脇腹にチョップを入れられたジョセフが、ちょっと恨めしそうにルイズに視線を向けた。 「……何よ。せっかくご主人様が一緒のベッドで寝てもいいって言ってるのに特に感想もなく寝ようって言うのかしら」 「感想っつってもなー。いや、今までに比べたら随分と寝心地がいいがのォ」 「他にはないの」 「他? えーと、ご主人様の溢れる慈愛に感謝しとりますじゃとか」 「……まあいいわ」 ルイズは少しだけ口を尖らせたが、頭をもぞもぞと動かしてもっと落ち着きのある位置を模索した。 それからちょっとして、ちょうどいい角度を見つけたので本格的に頭をジョセフの腕に預けてしまう。 愛用の枕に慣れ親しんでいた感覚からすれば違和感はやはりあるが、それもそのうち慣れてしまうのだろう。 「……あふ」 ルイズの小さな欠伸が消えると、再び静寂が訪れる。 しかしジョセフは再び眠気を捕らえようとしているのに対し、ルイズは頭の中でぐるぐると益体もない思考を巡らせていた。 (……何よ。私だけが大騒ぎしてただけっていうこと? 馬鹿馬鹿しいわ) 最悪の場合、家族やアンリエッタ王女殿下にお詫びしなければならない事態も考えていた。けれどジョセフは、ルイズと同衾することは孫娘と一緒に寝ること以上でも以下でもないようだった。 (……そりゃそうよね。私は、孫よりも年下で……うん。ジョセフはお父様より年上だもの。そんなはしたないことになるワケがないじゃない。考えすぎだったのよ) けれど、それでも胸の奥をちくりと刺す様な痛みを無視できない。 それは本当に小さくて、無視しようと思えば簡単に無視できるけれど、ルイズはその痛みを無視したくなかった。 何故ならその痛みは、ルイズの中にある確かな痛みだったから。 「……ねえ、ジョセフ」 「んあ?」 少しまどろみかけていたジョセフのシャツの裾を、小さな手でちょっと握った。 「……眠るまで何かお話して」 「話か? んー、どんなのがいい」 「そうね……じゃあ、ジョセフのいた世界のおとぎ話なんか聞きたいわ」 「む、おとぎ話か。じゃあ、こんなのはどうかのう……」 昔、小さいホリィに話した記憶を思い出しながら、赤ずきんを話して聞かせる。 最初のうちは相槌も興味深げに打たれていたが、それも少しずつゆっくりとなり、少しずつあやふやになっていく。だがジョセフは、それでもおとぎ話を続けていく。 やがて安らかな寝息が立て始めたルイズは、ころり、とジョセフに向かって寝返りを打つと細い手を使い魔の胸に回した。 ジョセフは優しく目を細めると、ルイズの肩に毛布をかけてやった。 「……狼はお腹に詰め込まれた石が重くて、川で溺れてしまったんじゃ。猟師に助けられた赤ずきんとお婆さんは、三人でパンとワインをおいしく食べたそうな。めでたしめでたし……」 すう、すう、と規則的な寝息を立てるルイズを見て、ジョセフも今度こそはと目を閉じる。 やがて小さな寝息と、十分間途切れない寝息を重ねる二人を、ただ月明かりだけが照らしていた。 To Be Contined →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/974.html
第2章 前編 「Buongiorno!(おはようございます!)」 爽やかな朝、爽やかな挨拶を、爽やかな笑顔で、爽やかな使い魔が、御主人様へ申し上げる。 ……返事が無い。ただの屍(?のようだ。 「朝ですよ! 起きて下さい!私の可愛い御主人様!」 「…おーい。 …朝ですよー」 「早く起きないと食べちゃうぞー(性的な意味で)」 「……(まだ夢の中か? オイ)」 少しイラっときたが、我慢々々。これもコミュニケーションの一つだ。 『やりたい事をやりたい時にやる』 『”明日”のため”今日”我慢する』 『両方』やらなくちゃあならないってのが『人間』のつらいところだな。 大きな『矛盾』も、楽しめればそれで良し! とはいうものの、流石に無反応は面白くなく、ちょっとだけ悪戯することに決めた。 「朝ですよー」 プニ (お やわらかい…) 幸せそうに眠っている御主人様の頬をつつく。 「…うにゃ」 !? 「…朝ですぜー」 プニプニ 「…うにゃあ」 (こ、こりは!?) お も し ろ い ! 「朝朝朝ー」 プニプニプニ 「…うににゃあ」 (もう起きてんじゃねぇのか? これ…) でも反応が”おもしろい”ので、もっと続けることにした。 「右からつつく。 左からつつく。 つまり……挟み撃ちの形になるな」 プニー 「…ぷー…」 「あぶなァーい! 上から襲って来るッ!(小声)」 鼻を上からプニー 「…むー…」 (絶対起きてるし、絶対”わざと”だ…。 しかし…) 何だこの感情は? こう、心が満たされるというか… 癒されるというか… 自分に新たな嗜好が生まれ出る瞬間に戸惑う。 「うーん…」 (お? 流石に起きるか?) 寝返りをうっただけで、起きようとしない。 「…やれやれだぜ?」 両手の人差し指を、御主人様の頬へ近づける。 「オラ オラ オラ オラ」 プニプニプニプニプニプニ…… 「…UUU、UREEYYYYYYYYYッ!!」 まるで、人間を辞めたかのような咆哮でベッドから飛び起きるルイズ。 「何すんのよ! もっと普通に起こしなさいよ!」 両手で頬をさすりながら、使い魔を怒鳴る。 「スイマセェェン……。 余りにも”可愛らしい”寝顔だったのでつい……」 遊んでしまいました。 「……ま、まあ、素直に謝ったから今回は許してあげる! でも、次はちゃんと起こしなさい!」 ほ~んの少しだけ嬉しそうな顔で、簡単に許すルイズ。 …もしかして「可愛らしい」って言ったから? だとしたら…。 なんて不憫な子……。 オレがもっと褒めてあげないと。 「可愛い」程度で満足したらもったいない。 この娘は御世辞抜きで可愛いのだから。 もっと輝いてもらうためには、少々のことで満足してはイカン! 『自信』を持つことは、強く美しく生きていくためには欠かせないのだ。…自信過剰は困るが。 わずか1秒弱で御主人様への感想と決意を固めたスクアーロだった。 そんな使い魔を尻目に、背伸びをして目を覚ましているルイズ。 「ウーン…… そんじゃ、服」 椅子にかかった制服を、ルイズへ手渡す。 ネグリジェを脱ごうと、裾を掴んだ。そこで動きが止まる。 「…あっち向いてなさい」 スクアーロに命令する。 ……恥ずかしくないんじゃ? 「いいから! あっち向いてて!」 「へいへい」 「返事は『ハイ』! 次、下着! クローゼットの一番下の引き出し!」 言われた通り、引き出しを開ける。 その中から”今日の気分”で選び出すスクアーロ。 (色気のあるヤツがないな…) 少しションボリしながら、選び終える。 「とっとと渡しなさい。 こっちを見ずに」 「相手を見ずに、物を渡すのはマナー違反だと…」 「うるさい」 しぶしぶ下着を投げ渡し、次の指示を仰ぐ。 「着せましょうか? 服」 「…いいわ。 自分でやる」 「そんな! フツー、使い魔とか召使いに手伝わせるだろ!?」 「自分を知れ… そんなオイシイ話が…… あると思うのか? おまえの様な(スケベな)使い魔に」 「…ヤッダーバァァァ…」 声にもならない声で、心の叫び(?をゴミ箱になげかけるスクアーロであった。 部屋を出ると、赤い髪の”bella donna ベッラ ドンナ”がいた。 bella donna(伊:美人) 特に胸がグンバツな美女が。 「おはよう。ルイズ」 ルイズは顔をしかめると、嫌そうに挨拶を返した。 「おはよう。キュルケ」 「あんたの使い魔って、これ?」 何故か自分の隣にいるスクアーロを指差す。 スクアーロは、手をキュルケの腰へまわしつつ、キュルケの手にキスをする。 「Buongiorno! あなたほどの『炎のように激しく、熱を持った美しさ』は初めてです。 お嬢さん♪」 「あら? お上手ね。 わかってるじゃない?あんたの使い魔さん♪」 「ダァッシャッ!!」 キュルケが言い終えると同時に、使い魔へA・猪○ばりの延髄蹴りを決めるルイズ。 さん付けにランクアップしたことを喜ぶ暇も無く、床を泳ぐ鮫。 「あらあら」 「ごご、ごめんなさいね? まだ躾がなってなくて。 すす、すぐに床に寝てしまうのよ。困ったものだわ」 肩を小刻みに震わせながら、使い魔に止めを刺す寸前のルイズ。 どこと無く全身にオーラを纏っているような……。 「だけど、『平民』を使い魔にするなんて、やるじゃない”ゼロ”のルイズ?」 怒りのスーパーモード状態のルイズを目の前にしても、動じることも無く挑発するキュルケ。 (後頭部とか首はヤバイだろ。常識的に考えて…) 瞬時に当たり所をずらして、即死だけは防いだスクアーロ。だが当然、床の上に寝ている。 「でも、どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ~。 フレイムー」 のそのそと、赤い何かがキュルケの部屋と思われるドアから出てくる。 「! …これって、サラマンダー?」 ルイズが悔しそうに尋ねる。 そうよー。火トカゲよー。と自慢するキュルケの足元で、フレイムと呼ばれたサラマンダーが行儀良くしている。 「…Buongiorno……。 使い魔どうし仲良くやろうや」 「きゅるきゅる…… きゅるきゅる?」 「…ありがとよ。 元気いっぱいだぜ?」 なんとなくだが、意思疎通に成功したことに満足するスクアーロ。 フレイムとの挨拶を終えた鮫はぼんやりと、タイプの違う2人の美女のおしゃべり(?を聞く。 「―――あなた、お名前は?」 御主人様同士の会話が終わり、ゆっくりと起き上がろうする平民使い魔へ問いかける。 「スクアーロ。 オレのクニで”鮫”って意味だ」 「すくあーろ? 珍しい名前ね」 「だろうな」 「ま、よろしくね。使い魔さん。 じゃあ、お先にし・トゥ・れいィィィ~」 …キュルケがとっびきりのギャグを披露しながらいなくなると、ルイズは拳を握り締めた。 「ぐーやーじ~~! (さっきの”し・トゥ・れいィ”も”ゼロ”と”れい”をかけて馬鹿にしてんだわ!)」 「別にいいじゃないか。 気にしたらイカンよ?」 「よくな~いッ! メイジの実力をはかるには使い魔見ろって言われるぐらいよ!」 「『平民』と『サラマンダー』では比較にならない?」 「当然でしょ! 人間同士でいえば『平民』と『貴族』ぐらい違うわよ!」 「……(他の『パッショーネ』のメンバーなら、ぶっ飛ばされてんぞ?)」 未だ興奮冷めやらぬルイズに問う。 「なあ、さっき話してた微熱とかゼロって『二つ名』ってやつか?」 「……そうよ」 「ふーん」 「……聞かないの?」 「何を?」 「二つ名の由来」 「君が教えてくれるなら」 「……。 ……行くわよ」 (やっぱり。さっきの会話からじゃあ、あんまりいい意味じゃなさそうだよな) ご機嫌ナナメの御主人様の後を、さっきのダメージの後遺症か、ナナメに歩きながらついて行く。 (やっぱり自信を持たせないと。) この娘には色々頑張ってもらわなければ…。 帰る方法を調べてもらうっていう大事な仕事があるからな。 それに何より……。 「美人は笑顔が一番ッ! これは真理だッ!」 ……今の鮫には親衛隊だった頃の獰猛さは全く感じられない。 ……異性に対する貪欲さは増しているが……。 「The Story of the "Clash and Zero"」 第2章 ゼロのルイズッ! 前編終了 To Be Continued ==
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/259.html
奇妙なルイズ-1 奇妙なルイズ-2 奇妙なルイズ-3 奇妙なルイズ-4 奇妙なルイズ-5 奇妙なルイズ-6 奇妙なルイズ-7 奇妙なルイズ-8 奇妙なルイズ-9 奇妙なルイズ-10 奇妙なルイズ-11 奇妙なルイズ-12 奇妙なルイズ-13 奇妙なルイズ-14 奇妙なルイズ-15 奇妙なルイズ-16 奇妙なルイズ-17 奇妙なルイズ-18 奇妙なルイズ-19 奇妙なルイズ-20 奇妙なルイズ-21 奇妙なルイズ-22 奇妙なルイズ-23 奇妙なルイズ-24 奇妙なルイズ-25 奇妙なルイズ-26 奇妙なルイズ・エピローグ~サイトの場合~ ~奇妙なルイズ 空条徐倫の場合~-1
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/738.html
血相を変えて飛び込んで来たコルベールに急かされて、適当な上着を引っ掛けただけの状態で出てきたルイズは、今制服に着替えるために自室に戻っていた。 「何なのよもう・・・ついでに剣を持ってこいなんて 近くにいるんだから自分で取りに来ればいいじゃないのよ」 着替えて来るならと、デルフリンガーを集合場所に持って来るようギアッチョに言われたルイズだった。 その原因もまた自分の着替えにあることにルイズは気付かない。文句を言いつつも、これ以上自分の評価を下げられたくないルイズは二つ返事で了承していた。 カシン、と音がしてデルフリンガーの柄が持ち上げられる。 「・・・あのー・・・お嬢様 で、出来れば自分は置いていって欲しいんですがね・・・メイジが5人に使い魔が4匹 ダンナも使い魔になったからにゃあ何かの能力があるんでしょ? お、俺を無理に連れて行く必要は・・・ないんじゃーないでしょうかねぇ~・・・なーんて・・・」 自分にまで怯える錆びた長剣に眼を向けると、ルイズはゆるゆると首を振った。 「確かにギアッチョは剣なんて持ってないほうが強いけど・・・でも剣が同行を拒否したなんてあいつが知ったらまたブチ切れるわよ」 ルイズは心底哀れそうな声で答えた。 「・・・で、ですよね・・・ ハハハハハ・・・ハァ・・・」 全てを諦めたような声を出すデルフリンガーを、ルイズは困ったような顔で数秒見つめ、 「・・・あんた、わたしにまで敬語使わなくてもいいわよ」 喋る魔剣は、ありもしない自分の耳を疑った。 「・・・貴族が?俺みてーな剣に敬語を使わなくていい・・・?失礼ですが・・・正気で? お嬢様」 「本当に失礼ね・・・」 ルイズはちょっと不機嫌そうな顔をしてみせる。 「わたしだってよく分からないわよ ・・・だけどなんか 流石に哀れすぎるというか・・・」 言い終えてから、ルイズはハッと気付く。哀れすぎる?哀れだなんて・・・貴族である自分が、今本当に言ったのだろうか。 一昔前の自分なら、そんなことは絶対に言わないし考えもしない自信がある。 召喚したのがあんな凄い奴じゃなくて普通の平民だったら、掃除に洗濯にと使えるだけ使い倒していたと思う。だってそれが貴族なんだから。貴族は戦を担い、発明を担い、外交を担い、経済を担う。それによって国体を維持し、文明を発展させてゆく。 貴族は国の分解、崩落を防ぎ、そして繁栄させてゆく。貴族がいるからこそ、国は国として成立する。そんな我々のために、平民が滅私の心で奉公するのは当たり前ではないか。我々は国を支えている。 平民が少しばかり辛かろうが苦しかろうが、そんなものは我々貴族の重大な責務に比べれば真綿の如く軽い。貴族はだから、平民に心を向ける必要も理由も全くありはしない。 それが常識であり、そしてまたルールでもあった。そして貴族として生まれた己も、それに疑問を抱いたことなど一度もなかった。だけど、今はそんな考え方に嫌悪すら抱く。何故か?ルイズは今、その答えに気付いた。それはどこから見ても――貴族の論理だからである。 ギアッチョを召喚して、平民と深く関わることで気付いた。この論理には、平民側の視点などカケラも入っていない。全て貴族の貴族による貴族の為の論理に他ならない。 貴族はこうする。だから平民はこうしなければならない。貴族はこうしてやっている。 だから平民はこうあるべきである。つまるところそういうことである。まず貴族ありき。 そしてそこから貴族に出来ないこと、やりたくないこと――そういうものの穴を埋める形で、平民の役割が勝手に配置されている。 最低だ、とルイズは思った。この論理を裏返しにすればこうなる。我々平民は生産の維持、拡張を担っている。市場の形成、維持、食料の供給を担っている。そして貴族の身の回りの世話まで担ってやっている。ならば魔法しか取り得の無い諸君ら貴族は、せめてその命を賭けて働くべきである。 馬鹿馬鹿しい。ルイズはそう思う。こう考えれば、貴族と平民の間に優劣など何もないではないか。命を賭ける仕事だから偉いのか?頭を使う仕事だから偉いのか? 下らないことこの上ない。平民達だって命を賭けている。馬車馬のように働かされて、ロクに食べ物も与えられずに死んでゆく者もいるのだ――・・・。 「――お嬢様!おーい!お嬢様よ!」 デルフリンガーの呼び声に、ルイズはハッと我に返る。 「大丈夫ですかい? いきなりボーッとされちまって」 「・・・ああ、大丈夫 何でもないわ・・・それより言ったでしょ 敬語なんていらないわ それとわたしはルイズと呼びなさい」 「・・・そりゃ・・・マジで言ってんのかい・・・」 呆けたような声で呟く剣に、ルイズは「当たり前よ」と返した。もしインテリジェンスソードに眼があったなら、このデルフリンガーは今漢泣きに泣いていたことだろう。 「おでれーた・・・今まで幾人もの所持者の手を渡って来たが・・・あんたみてーな貴族は初めてだ!おめーは・・・おめーはなんていい奴なんだルイズ・・・ッ!」 実のところ数千年の時を生きているデルフリンガーが未だ保持している記憶の 中で、貴族にこんな扱いを受けたことは初めてだった。最も、元々ギアッチョの存在さえ無ければ敬語を使えと言っても聞く耳持たぬ図々しさを持っている剣なのだが、ギアッチョに口では到底言えない様な目に合わされてすっかり萎縮した彼の心には、ルイズの言葉はまるで地獄の仏、砂漠のオアシスのような感動を与えたのだった。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」 人語を解する魔剣はひときわ大きな声で言い放つ。 「たとえ天が落ちてこようが、この身が砕け散ろうが!デルフリンガーの名に賭けて、おめーだけは守りきると今ここに誓うぜ!」 あっけにとられるルイズの前で、デルフリンガーはそう誓約した。 「・・・な、何格好つけてるのよ!自力じゃ動けもしないくせに」 軽口を叩くルイズだったが、その内心は喜びに満ちていた。何故ってまた味方が出来たのだから。隠しても嬉しさが滲み出ているルイズの仕草を満足げに眺めながら、 「ま、そいつはちげーねぇな」 久しぶりに心から笑ったデルフリンガーだった。 タバサと共に早々に学院前に待機している馬車に乗り込んでいたキュルケは、学院の外壁に背を預けて腕組みしているギアッチョを見る。 「ねぇ・・・ どうしてルイズを止めなかったのよ」 閉じていた眼を開いて、ギアッチョはギロリとキュルケを睨む。 「言っても解らねーもんはよォォ~~ 実戦で覚えこませるしかねーだろーが」 「実戦で・・・って、危なくなったらちゃんと助けに入るんでしょうね?」 ギアッチョはそれに答えず、馬車に乗り込むとまた眼を閉じた。キュルケは文句を言おうとして、当のルイズがやってきたことに気付く。 「す、すいませんミス・ロングビル・・・遅れてしまいました」 そう言って謝るルイズに問題ないと笑いかけて、緑髪の秘書は手綱を握る。 錆びた剣をギアッチョに渡して馬車に乗り込むルイズを確認して、ミス・ロングビルは発車の合図をする。 「それでは出発しましょう」 その時、「待ってくれェェェェ」という声と共に悪趣味な服の男が走って来た。 「「「あ」」」 ルイズとキュルケ、そしてミス・ロングビルが同時に声を上げる。この場の誰もが、彼の存在を忘れていた。誰あろう青銅のギーシュである。 ――ここは、違う 馬車に揺られながら、ギアッチョは考える。ここは自分が思っているより、ずっと甘くて怠惰な場所――ギーシュに止めを刺そうとした時ルイズに言われた言葉を、ギアッチョは反芻していた。この世界に来てからずっと感じている違和感。 自分がまるで世界の毒であるかのような気分の悪さと、ゆりかごの中で祝福されているような安心感と居心地の良さ。オレに相反する感情をもたらすこの世界は、一体何なんだ?長い沈黙の末に、ギアッチョはようやく気付いた。 ここは、カタギの世界なのだと。ここにいるガキ共は、恐らくその殆どが何不自由なく親元で暮らし、そして正式な手続きに則って正式な教育を受けている。 そしてまた、学院自体にも後ろ暗い所などありはしないだろうし、教師達も正式に認められている者達なのだろう。つまり。ここはギャングの世界ではないのだ。 生涯の殆どをマフィアとして過ごしてきたギアッチョは、様々な事情からカタギの仕事に身をやつしはしても、彼らの生活やルール・・・つまるところ、カタギの世界というものとは全く無縁だった。 それ故に、この世界を正しく認識する為にいささかの時間を要したが――つまるところ、それが彼の感じていた居心地の悪さの理由であり、そして居心地の良さの理由であった。そしてそれを理解した今、彼は戸惑っていた。この世界では自分は異物に過ぎない。異教徒である自分は、一体どうすればいいのか。異国の民である己は、この世界で生きることを許されてはいるのだろうか―― くいっと服の裾を引っ張られて、ギアッチョは我に返って隣に眼を遣った。彼の横で本を読んでいるタバサが、活字に眼を落としたまま小さな声で呟く。 「前」 前?なんだそりゃと思いながら、ギアッチョは前方に眼を向ける。自分の対面でうつむいている少女が、すがるような眼で自分を見つめていた。ギアッチョと眼が合うと、ルイズはハッと眼を逸らす。眼を閉じるフリをすると、ルイズはまた自分をこっそりと見つめる。眼を開ける。逸らす。閉じる。見つめる。開ける。逸らす―― なんだかよく分からないが、ルイズは自分を気にしているらしい。身に覚えはないが、こんな視線を無視し続けるのはのは気分のいいことじゃあない。 とりあえず声をかけようと口を開きかけた時、 「えぇぇぇーーーーーーッ!!?」 ヘタレボイスが大音量で鳴り響いた。 「うるせーぞマンモーニ!」 「ヒィィすいません!!」 キュルケに宝物庫を襲った巨大なゴーレムの話を聞いて縮み上がったギーシュの心臓に、ギアッチョの悪鬼の如き――彼にはそう聴こえた――声が、更に追い討ちをかける。馬車の隅でいっそ感嘆出来るほどガタブルと震えるギーシュにてめーは携帯電話かとツッこみたかったが、誰も理解出来ないのでギアッチョは黙っておくことにした。 「ギーシュあなたねぇ・・・本当にどうにかならないわけ?そのビビり癖」 キュルケが心底呆れた顔でギーシュを見ている。隣のタバサはいつものことだと言わんばかりに読書を続けていた。ミス・ロングビルも微妙な顔で馬を御している。 「だ、だってフーケはトライアングルクラスだって言うじゃないか 君もトライアングルなんだろう?タバサもシュヴァリエだって聞いたし そんなに力の差があるとは・・・」 モンモランシーが見れば3回は幻滅しそうな顔をこちらに向けるギーシュ。 「トライアングルだってピンキリなのは知ってるでしょう? それに岩山に炎や風をぶつけたところでダメージなんてそうそう与えられはしないって昨日嫌ってほど学習したわ」 キュルケはやれやれといった感じで首を振る。なるほどな、とギアッチョは思った。 確か、生前読んだ東洋魔術の五行相剋という理論によれば、土に勝つものは木であるらしい。ギアッチョも伊達に眼鏡をかけているわけではないのだ。 それなりに読書はするほうなのである。もっとも、借りた本を片っ端から破っていくのでイタリア中の図書館から出禁を食らっていたが。 ――そもそもこの世界にゃ木なんて属性は存在しねーらしいからな・・・ つまるところ戦略次第だな。と結論したところに、 「戦略次第」 タバサがいいタイミングで代弁する。一応話を聞いてはいるようだ。 「ま、いざとなれば破壊の杖だけ奪い返して逃げればいいことだしね 名目は討伐だけど、学院としては杖さえ戻ってこればなんとでもなることでしょうし」 こっちにはシルフィードがいるのだ。鈍重なゴーレムから逃げることなど容易い。 キュルケは――いや、その場の殆どの者がそう考えていた。 それでは困る、と考えたのはルイズである。勇猛果敢に真正面から戦いを挑み、そして自分の力でフーケを打ち倒す。そうすればきっとギアッチョは自分を見直してくれるし、そうでなくてはきっと完全に見放される。なんとしても自分の手で土くれのフーケを倒さなくてはならない。ルイズの胸中は、もはやその考えで一杯だった。ひょっとしたら幻滅だなんて自分の考えすぎだろうかと一度は思ったルイズだったが、馬車の中ではずっと眼をつむっていて、たまに隣のタバサと短い会話は交わしても自分には一度も話しかけてくれないギアッチョを見て、もう彼は完全に怒っていると思い込んでしまっていた。 そんなこんなで、一部の思惑をよそに馬車は鬱蒼と茂る森の入り口へと滞りなく到着し、馬車を降りたルイズ達はあっさりと――実にあっさりと――フーケが潜入していると目される小屋を発見した。、
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/692.html
トリスティン魔法学園のとある教室。 そこに2つの人影入ると、それまで雑談していた生徒達が一斉に好奇の視線を向ける。 朝食を終えたルイズと育郎である。 二人を確認するとくすくすと笑い出す生徒達を、無視して席に座ろうとするルイズに 一人の生徒が声をかける。 「あらルイズ、貴方本当に平民が使い魔なのね」 燃えるような赤い髪に豊満な肉体、褐色の肌を持つその生徒を、ルイズは苦々しく見た。 「キュルケ…なによ、何か用なの?」 「用事って程じゃないわよ、貴方の噂の使い魔を見たくてね。へ~」 そういって育郎をじろじろと見る。 「中々いい男じゃない…でも、やっぱり使い魔って言ったらこういうのじゃないと」 キュルケの横から、真っ赤な巨大トカゲがのっそりと身を乗り出してくる。 「これって、サラマンダーじゃない…」 「そうよー、火トカゲよー。見てこの尻尾!」 悔しげにサラマンダーを見ながら、キュルケの自慢話を聞くルイズを横目に、一人育郎は 眼の前のサラマンダーと、周りにいる使い魔たちを感心して見ていた。 (本当に漫画やゲームの世界だな…あれはキメラ、いやマンティコアだっけ?) 「ルイズ…あの浮いている目玉はなんて言うんだい?」 「鈴木土下座衛門って…ちょっとあんた、恥ずかしいからキョロキョロしないでよ!」 「いいじゃない。貴方、私の使い魔はどう?素敵でしょ」 と言われても、育郎にサラマンダーの良し悪しなど判るはずもない。 大きさを褒めるべきなんだろうか? それとも色? そういえば昔、沙羅曼蛇ってゲームがあったっけ? 小学校で同じクラスになった花京院君はゲームが上手かったな… 禁止と言っても毒ガスを放つドイツ超人を必ず使うから嫌われてたっけ 彼は今どうしているのだろう? 「はいはい、みなさん席に座って」 そうこう考えてるうちに先生が入ってきたようだ。 助かったと思い、席に座ろうとするが「使い魔は椅子に座っちゃ駄目!」とルイズに 言われた為、仕方なく教室の後ろの壁に背を預ける。 ふくよかな頬から優しい印象を受けるミセス・シュヴルーズは土の魔法の先生らしい。 授業は始めてと言う事もあって、実にわかりやすい。 (それにしても…火、水、土、風はわかるけど虚無か) 属性の説明を聞きながら育郎は考える。 失われた属性と言われる虚無。 他の事柄は、それこそ漫画やゲームの知識のままだが、虚無と言うのは異質に感じる。 「では…ミス・ヴァリエール、この石を『錬金』で金属に変えてみてください」 その声で考えを中断して、ルイズの方を見る。 するといつも元気なルイズが、困ったようにもじもじしているではないか。 周りの様子もおかしい。 「なんて事だッ!『ゼロのルイズ』に魔法を使わせる事になってしまったッ! ラ・ヴァリエール家が生み出した、恐るべき暴発兵器『ゼロのルイズ』をッ!」 「『ゼロのルイズ』に魔法を使わせることは核爆発させる事と同じだッ!」 等と叫ぶ生徒もいれば、急いで机の下に隠れる生徒もいる。キュルケも顔面蒼白だ。 それとは対照的に、前に出たルイズににっこりと微笑むミセス・シュヴルーズ。 「ミス・ヴァリエールッ! あなたは必ず錬金を成功できるッ!もっと!もっと! 石ころを金属に変えれるとおもいなさいッ!空気を吸って吐くことのように! HBの鉛筆をベキッ!とへし折ることと同じようにッ!出来て当然と思うのですッ! 大切なのは『認識』することですッ! 魔法を操ると言う事は、出来て当然と思う精神力なのですッ!」 ミセス・シュヴルーズのアドバイスに意を決して杖を掲げる、ルイズ。 精一杯頑張っていますと、全身からオーラを出すルイズを見て、育郎は思わず微笑んだ。 そしてルイズが勢いよく杖を振り下ろした次の瞬間…机の上の石ころが爆発した。 ルイズは自分の魔法の失敗で生まれた爆風を受けながら考えていた。 またやってしまった…また失敗してしまった… そして自分につけられた二つ名を嫌でも思い出す。 ゼロのルイズ 魔法の成功率ゼロ 落ちこぼれの証 泣きたくなるほど情けなくなるが、彼女の人一倍高いプライドがそれを許さなかった。 とりあえず何かを言って誤魔化さなければならない。 失敗しちゃった(テヘ) 等と言うわけにはいかないのだ。何か良い言葉は無いか… また、つまらぬ物を爆発させてしまった… こんなのはどうだろう? いいぞ、なんかそこはかとなく格好良い気がする。 意を決して口を開こうとした時、誰かが自分を揺さぶっている事に気付いた。 「ルイズ、大丈夫かッ!?」 「はえ?」 「よかった…怪我はない………先生!先生、大丈夫ですか!?」 ルイズに大した怪我が無い事を確認した育郎が、今度はミセス・シュヴルーズを介抱する。 「おお…一体何が…」 「わかりません…急に爆発が起きて…」 「そんな!ミス・ヴァリエールは?生徒達は大丈夫ですか!?」 「ええ、心配ありません。みんな無事です」 「ああ…よかった…本当に良かった…」 安心して泣き崩れるミセス・シュヴルーズ。 その光景を呆然としながらみつめる生徒達とルイズ。 「君、お医者さんか保険の先生を!」 「あ、うん…」 普段なら「平民如きが貴族に命令するんじゃない!」と怒るところだが、 状況についていけないその少年は素直に従う。 「な…なにこれ?彼は何をしているの!?」 キュルケが信じられないと言うようにつぶやく。 「いや、これが『普通』なんだ…」 「え?」 誰と無く言った言葉に、医務室から先生を連れてきた少年が答える 「僕達も最初はああだった…でもいつのまにか慣れてしまったんだ… 彼は、僕達に忘れていた大切な何かを思い出させてくれたんだよ…」 「ていうかあなた誰?」 「な!?マリコルヌ!風上のマリコルヌだよ!去年も一緒だったろ!?」 「そうだっけ?」 「ひどい!?」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/871.html
図書室と言うものは何処でも独特の黴臭さを僅かに漂わせている。 しかしジョセフが初めて足を踏み入れた其処は、ジョセフが利用したどんな図書館よりも巨大で、立ち並ぶ書架の群れに並べられた無尽蔵とも思える蔵書達。 宝物庫での騒動で、生徒達は勿論司書達も現場に行っている。この広大な空間に三人きりというのは、奇妙な高揚感が浮き上がってくるのだった。 「っはー……すげェモンじゃのォ~~~~」 もはや感嘆するしか出来ないジョセフの横で、何故かルイズが自慢げに腕を組んだ。 「当然よ、このトリステイン魔法学院の図書室はこの世界にある全ての書物を収蔵しているとも言われてるのよ」 ジョセフとタバサは『いやそこはお前が自慢するトコじゃない』オーラを色濃く漂わせていたが、ルイズはそれに気付く様子は皆無だった。 「それはさておいてじゃ、タバサ、ルイズ。この辺りの地図を手当たり次第用意してくれ」 妙な空気をするりと流すように、二人に言葉を投げる。 「判った」 「よし! そうと決まればどーんと用意しちゃうわ!」 そう言うと二人は書架へと走って行く。 ジョセフは二人の後姿を見送ると、脱いだ帽子や上着を机の上で勢い良く振り回す。 ゴーレムや宝物庫の爆風に巻き込まれたジョセフの服には、フーケの魔力がこもった砂や宝物庫の壁の欠片が付着している。綺麗に拭かれた机に散らばる欠片は、後の掃除が非常に思いやられる量だった。 (ルイズがえっれえやらかしよったからのォ。本当に死ぬかと思ったわい) 椅子を引いて腰掛けると、先程の戦いを思い起こす。 ゼロだゼロだと言われてはいるが、ジョセフの波紋のビートよりもルイズの爆破の方が確実に威力が高かった。使いこなせない力を振り回すという点は、承太郎を思い起こさせる。 (ええ年こいて二十歳にもなっとらん子供に振り回される運命なんかのォ。なァ~んかそんな気がしてならんわい) くく、と苦笑して、砂塗れの帽子を手で叩いて埃を落として被り直す。 爆風に晒されるわゴーレムの腕で掴まれ続けるわで受けたダメージはあるが、波紋呼吸で和らげ、治癒すれば何とかなる。今問題があるとすれば、ルイズ本人か。 能力の片鱗はあるのは確かだ。だが有り余る能力の使い方を知らないのは味方にも危険だ。 だがルイズは怠惰ではない。むしろ勤勉で誇り高い少女なのは間違いない。だがだからこそ、自分の責任を懸命に果たそうとして失敗する傾向も否めない。 (ルイズは魂は貴族じゃ。じゃが……周囲からはそうは認められておらん。そのギャップが、ルイズが自分が貴族足らんと必要以上に自分を追い立てておるんじゃな) ノーブレス・オブリッジという言葉がある。直訳すれば『高貴なる者の義務』、高い地位にある者は多くの責任を抱くという意味の言葉。 英国貴族には当たり前の言葉であり、エリナ・ジョースターは「そんなものは貴族である以上持っていて当たり前」という精神でジョセフを育てた。しかしこの言葉も、近世に入ってやっと唱えられた言葉。 中世レベルを維持しているこの世界では、貴族は生まれながらにして特権階級であり、平民は搾取される者としての地位であることは覆しようの無い事実だ。そこに貴族の義務など存在しない。生まれが高貴だから高貴なのだ、という論法が通用する。 だがルイズは、生まれこそ貴族だが、貴族である者に必須ともいえる魔法を満足に使いこなせない。だから魔法以外の部分は必要以上に貴族たらんとする。 故にこの世界では非常に珍しい、「ノーブレス・オブリッジ」を心に抱くことになった。 先程のゴーレムも、ルイズはただ部屋の中で成り行きを見守っていて良かったはずだ。だが彼女は義憤に燃え、わざわざ危険に身を晒しに行った。(本当に危険に身を晒したのはジョセフなのだが) 傍目から見ていれば滑稽とも言えよう。 だが、美しい白鳥は優雅でなくとも、どれだけ無様だろうと、ひたすらに泳ぐ努力を続けている。それが、今のルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの姿なのだ。 「……損な生き方じゃのう」 「損な生き方って何よ」 ふぅ、と溜息を吐いたジョセフに、主人の声が掛けられた。 ルイズとタバサは、それぞれ腕に地図を抱えてジョセフの待つ机に戻ってきていた。 「ん? ……あー、いや何でもない。地図は揃ったかの」 見れば判ることを聞きながら、何枚かの地図を別の机に広げていく。その中で縮尺の大きな学院周辺の地図を選ぶと、ジョセフは右手からハーミットパープルを発動させた。 「ハーミットパープルッ! フーケの居場所を探り出せッ!」 紫の茨は、地図と机の上にばら撒かれた砂に伸びていく。 そして二つの小石を付着させた茨は地図の上を這い回り、ことりと小石達を落とした。 一つはフーケのゴーレムを形成していた土の欠片、もう一つは宝物庫の壁の欠片だ。 学院からやや離れた場所に置かれた小石達は、あれから馬に乗って休み無く駆ければこの辺りに到達するだろう、という場所に置かれていた。 「……これは先住魔法?」 茨が地図を這い回るのを観察していたタバサが、ジョセフに問いかける。杖も振らずに発動し、四系統魔術では不可能な能力を発揮したのを見れば、メイジはそう問うのが普通だろう。 「いや、こいつぁスタンドと言う。魂を具現化させた能力じゃ……詳しい原理は後で話しちゃる。今、この石がフーケと持ってかれた宝物の居場所を示しておるワケじゃ」 タバサはそれ以上の質問もせず、了承の意味を込めてこくりと頷いた。 「ここから休み無く移動するとしたら、大体こんくらいじゃ。……しかし妙じゃな」 ジョセフは地図を見ながら首を傾げた。 「フーケは何故こんな山の方に逃げよるんじゃ? こっちに行けば港町もあるし、こっちに行ったら隣の国に行けるはずじゃ。むしろフーケが向かっとるのは、これから逃げるには不適格過ぎやせんか。わしならこっちにゃ逃げはせん」 彼の問いに、ルイズも同じく首を傾げながら答えた。 「んー……フーケのアジトに向かってたり、仲間がここにいたりするんじゃないの?」 「アジトを用意するにしちゃ、かなり辺鄙じゃの。近くに村もないから食料やらなんやらが用意しにくい。逃げ道もないのが逆に不自然じゃな」 「私も同意する。ここは逃走も隠遁もし難い。あるとすれば罠を仕掛けている可能性が」 「罠か。……あるかもしらんな。これ見よがしに痕跡を残して跡を付けさせる作戦かもしらんな。バックトラックの可能性も考えるべきか」 三人で頭を寄せながら考えている間も、茨は微かに小石達を動かしていく。 「とりあえず、こっち方面の詳しい地図で念視してみるとするか」 縮尺の小さい地図を新たに広げると、再び茨が地図の上を走り、小石を落とした。 「……えらく立派な道を通っとるな。人目に付くとか考えんのか」 見れば見るほど不自然な動きをしている。それこそ見つけてくれと言わんばかりだ。 「しかしこれで追跡は可能じゃな。後は素早く追いついて、ゴーレム出させる前にブッちめりゃいいだけの話っつーこッた!」 気合を入れるようにジョセフが大声を上げたその時、図書室の扉が開き、新たに二人の人物が広大な空間に入ってきた。 ルイズの宿敵にしてタバサの親友キュルケと、トリステイン魔法学院の学院長オスマンの二人だった。 二人はテーブルに地図を広げている三人を見つけると、そちらへと歩いていった。 「おう、ミス・ヴァリエールにミス・タバサ。そしてジョースター君、何をしておるのかね」 68にしては若作りのジョセフより明らかに年上のオスマンが、火気厳禁の図書室でもパイプをプカプカ吹かしながらお気楽な様子で声を掛けてくる。 「オールド・オスマン。御足労頂き光栄の限りです」 ルイズとタバサが深々と頭を下げたのを見て、ジョセフも倣って頭を下げた。オスマンの視線がどこか鋭くジョセフを見つめていたが、彼が頭を上げた瞬間に普段の茫洋とした視線だけがジョセフ達を見やっていた。 「君達が呼んでいるというんでここに来たんじゃがな。フーケの騒ぎを抜け出すに相応しい理由を聞かせてもらいたいもんじゃ」 そう言いながら、ジョセフ達のいるテーブルまで来ると椅子を引いてよっこらしょと座る。 そこで説明役に回るのはルイズとタバサ。言葉の足りない箇所はジョセフが補足する。 武器屋で茨を目撃したキュルケでもまだ疑わしそうな顔をしていたが、オスマンは説明をふむふむと一通り聞いたところで、では、と問いかける。 「ジョースター君、それでは一つ聞きたいことがある。君のハーミットパープルとやらで、わしの故郷を指し示して欲しいんじゃが。出来るかね?」 「お任せ下さいオールド・オスマン。何か身に付けているものをお貸し頂ければ」 「ではパイプでええかの」 「十分ですわい。では――ハーミットパープルッ!!」 パイプを受け取ったジョセフの右手から迸った茨達は、地図達の中から一枚の地図を引き出してテーブルの上に広げると、ある一つの都市にパイプを置いた。 「なるほど、信じよう。確かにそこがわしの生まれ故郷じゃ」 オスマンはパイプの置かれた場所を一瞥し、特に驚きもせずにパイプを手に戻した。 その経緯を見ていたルイズは胸を撫で下ろし、キュルケはきゃーさすが私のダーリンだわ、とルイズの怒りを煽った。タバサは無表情に見ているだけだった。 「本題に戻りましょうかの。今、フーケめはここにおるんですじゃ。今すぐ追跡すりゃやつめをブッちめることも出来ますわい」 ジョセフの言葉に、オスマンはパイプから吸った煙をゆっくりと吐き出した。 「居場所が判ったのは僥倖じゃ。しかし一つ聞くが、誰がフーケの追跡に行くんじゃ。残念じゃがうちの教師達は大口叩きの腰抜けばかりじゃぞ? まさか生徒をそんな危険な任務に出させるワケにもいくまい」 オスマンの言葉に、真っ先にルイズが杖をかざした。 「私が行きます! いえ、行かせて下さい! 土塊のフーケには先程の借りがあります、ヴァリエールの三女として屈辱を受けたままにしておくことは致しかねます!」 ルイズの宣言を驚いた目で見ていたキュルケだったが、彼女もまた「やれやれだわ」と言わんばかりに肩をすくめてから、杖をかざした。 「わたくし、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーもフーケ追跡の任務に参加いたしますわ。ゼロのルイズに任せておくだなんて、そんな恐ろしい真似などしていられませんもの」 宣言にすらルイズへの嫌味を織り込む態度に、ルイズが怒りをむき出しにするが、当のキュルケは飄々と笑って視線を返すだけだった。 そしてタバサも、無言で杖をかざした。 オスマンは三人の少女達がかざした杖を見やってから、大きく頷いた。 「その意気や良し! じゃが君達にはフーケの捕獲ではなく、学院より盗み出された『破壊の杖』奪還を最優先としてもらうッ!」 「破壊の杖ですって!?」 この場にいた者の中で、ルイズだけが驚愕の叫びを上げた。 キュルケは宝物庫の側でオスマンが図書室に来るのを待つ間、騒ぎを見物していたので何が盗まれたかは知っていた。 タバサは例え驚いていても表情からそれを判別するのは困難だった(ちなみにキュルケの見立てでは、全く心を揺さ振られていなかった)。ジョセフは驚く代わりに「破壊の杖ってなんじゃらほい」な顔をしていた。 「フーケを捕縛出来るのならそれに越した事は無い。じゃが盗まれた宝物はキッチリ取り返してもらいたい。盗賊風情に虚仮にされたとあっては、我が学院の名折れじゃからの」 オスマンはゆらりと立ち上がると、ルイズ達三人の生徒を見……そして、ジョセフに視線をやり。おごそかに、四人の追跡部隊に告げた。 「トリステイン魔法学院は諸君らの働きに期待する!」 そして、ジョセフに告げる。 「そうそうジョースター君。何かあったら無用心じゃ、ミス・ヴァリエールの使い魔としての責務を果たすために剣を忘れてはいかんぞい」 「デルフリンガーのことですな。よく御存知で」 一人の使い魔が剣を買ってきた事まで把握しているオスマンに少し不審げな目を向けるが、彼は何も変わった素振りすら見せずに目を閉じた。 「わしはあれやこれや見るのが大好きでの。この学院の中で起こった出来事は全て理解しておる」 学院長の言葉を、ジョセフは静かに聴き。「お気遣い有難う御座います」とだけ答え、地図をまとめた。 「んじゃ必要になりそうな分の地図だけ借りていくとするかい。行く前にデルフリンガー持って行くぞルイズ」 「馬よりもシルフィードのほうが早い。それに直線距離で追跡できる」 「ああん、ダーリンと一緒に任務だなんて……もう私達の愛を育むには打って付けよね」 「だから人の使い魔に色目使うんじゃないわよこの色情魔!」 女三人寄れば姦しいと言うが、二人だけが突出して騒がしい。 そんな様子を眺めながら、オスマンはぷかぷかとパイプを吹かしていた。 ジョセフはタバサの持ってきた皮袋に、テーブルにぶちまけた砂を入れると地図を抱えて三人の少女達と共に図書室を出て行く。 そして、彼女達が出て行ってから数分後、U字ハゲのコルベールが図書室にやってきた。 「彼女達は行きましたか。本当に宜しいのですか、学院長。いかに彼女達と言えども、生徒には重荷では…」 不安げに問うコルベールに、オスマンはニマリと笑って返答する。 「この学院で、あの三人に適うメイジなぞそうはおらん。それに、あのジョセフ・ジョースターがついておる。わしらは黙ってあの子達が帰ってくるのを待っとればええ」 「……ガンダールヴですか。まさか学院長、伝説の使い魔の実力を見るために……」 「さあ、どうじゃろな。じゃがもしジョセフ・ジョースターがガンダールヴでなくとも、心配はいらんじゃろ。彼はかんなり頭のキレがええ。そこにタバサ君までおったら、二人の経験不足もカバーし放題じゃしな」 かっかっか、と気楽に笑うオスマン。それを見るコルベールは、どうにもまた頭が寂しくなる予感を捨て切れなかった。 To Be Contined →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/435.html
ポルナレフはワルキューレに吹っ飛ばされた時、 スタンド無しでナイフだけだとやはりこれが限界か、と思った。 しかし、飛ばされた瞬間、亀の中で矢がまるで『そうなると決まっていたかのように』床の上に落ちた。 そして…その矢はポルナレフの右手に刺さった。 ポルナレフは『これ』を運命が自分にもう一度闘えと命令したのだと受け取った。 そして誓った。この『二度蘇った魂』がまた死ぬまで、運命に導かれるまま、闘い続けると。 「『運命に選ばれた』だって? な、何を言い出すんだい?さっぱり分からないな。」 ギーシュは嘲笑した。 しかし、顔は明らかに強張っている。 ポルナレフから感じる、先程とは全く違う新たな威圧感に、これまた異質の恐怖を感じていたのだ。 「た、ただ、君はまだやるみたいだね。それだけは理解したよ。」 そういうと震えながら、薔薇をポルナレフの方に向け 「い、いいだろう。もう眠っておけ。この平民がッ!」 恐怖を振り払う様に言い放った。 するとワルキューレ達の足元から槍が出現した。 それぞれがそれを手に取ると、再度六体のワルキューレがポルナレフに向かって突進した。 (素手ですら勝てなかったのに、今度は槍!ナイフと槍じゃリーチが違いすぎる! ますます勝ち目は無いッ!) ポルナレフとワルキューレが衝突する瞬間、ルイズは思わず目を背けた。 …しかし槍が刺さる音もナイフと当たる音も聞こえてこなかった。 不思議に思い、恐る恐る目を開けようとした瞬間! 「ルイズー!上、上!」 誰かが叫んだのが聞こえた。 「は!?」 思わず上を見た瞬間! ボギャアッ! 上から何か金属のような物が降って来た。 「タコスッ!」 「おっぱァアアーッ」 「デッ」 ルイズとその他ギャラリーはそれぞれ顔面に何かが直撃し、思い思いの意味不明な叫びを揚げつつ気絶していった。 一方ギーシュは前方の光景に自分の目を疑った。 ポルナレフを中心とし、その周りに空から降り注ぐ鈍い光沢を持つ物体。 それは自分のワルキューレが『あるはずの無い何か鋭利な物』にスライスされたものだった。 「ぼ、僕のワルキューレが…!?」 ギーシュは完全に恐怖に飲み込まれていた。 (青銅は確かに柔らかいが、あんなチャチなナイフじゃ… い、いや、違う!あいつは微動だにしちゃいないッ!杖も持っていない! ま、まさか先住魔法を使えるのか!?) 有り得ない事だが、そう思わざるをえなかった。 「さて、もう六体目まで斬ったが…そろそろ死ぬか?」 ポルナレフは六体目のワルキューレを斬り倒すと言った。 「降伏してもいいんだぞ? まあ、貴様の美学や家柄がどうだか知らんが… 俺から言わせてもらうと自殺したり降伏するより、 相手の力で死ぬ方がずっと気高い死に方だと思うな…」 「な…何を言いたいんだい?」 「貴様には選ぶべき『二つの道』があるということだ。 名を憂いこのまま闘うか。それとも、命を惜しみ降伏するか、だ。」 ギーシュは悩んだ。 このまま戦えば間違いなく勝ち目は無い。 命を失うかもしれない。 しかし、この男の言っている事は正にグラモン家の家訓である。 名か、命か。二者択一。 ギーシュは考えた。 …………… ギーシュは覚悟を決めると、ポルナレフを見た。 「メイジは杖を失う時、初めて負ける! 僕はそれまで降伏しない!」 ギーシュはポルナレフに対してそう叫んだ。 「それが『答え』か…それでいい… 貴様が選んだ道が『正しい道』かどうかはこれから分かる。」 ポルナレフは微笑んだ。 ギーシュは残ったワルキューレを全力で突っ込ませ、自身は「フライ」で空に舞い上がった。 ポルナレフは『誰にも見えない騎士』が右腕に持つレイピアを振るい、最後のワルキューレを先程と同様バラバラにした。 空を見るとギーシュは何かを唱え、杖をこちらに向けると大量の石が突っ込んできた。 ギーシュが唱えたもの、それは石礫だった。 だが当然全て弾き飛ばされた。 (ワルキューレはもう作れない… だがあいつの攻撃は近くにまで来ないと使えないらしい。 なら、石礫で闘えばいい!当たらないのなら当たるまでやり続ける…!) ギーシュはまた石礫を唱えた。 ポルナレフには呪文が何を指すのか分からない。 だが、先程から石ばかり飛ばしてくるのをみるともうあのゴーレムは作れないらしい、と理解した。 ならば、とポルナレフは『狙う』ことにした。 (近寄れないなら…『近寄らずに』攻撃すればいい。) ポルナレフは少し横に移動した。 ギーシュはポルナレフが移動したので、それに照準を合わせようとした、正にその時である。 ぺキィ! 「え?」 ギーシュは何かが折れる音と同時に落下するのを感じた。 まさか、と薔薇を見ると真っ二つに折れている。 「い、いつの間にィィイィ!?」 ポルナレフが最後の一つだけを打ち返し、移動によって相手に一瞬の隙を作らせたのだ。 (あいつが打ち返したのか?まさかそんなことがッ! それより死ぬ死ぬッ!) フライが仇となってしまった。 地面に向かって落下するギーシュ。 (さよならヴェルダンデ…僕の愛しい巨大モグラ…) ギーシュは目をつぶった。 「はッ!?」 ギーシュは目を覚ました。 まだ視界はぼんやりしているが、どうやらここは医務室らしいことが分かった。ベッドの脇にはモンモランシーやマリコルヌがいた。 「あ…えっと…ど、どうしたんだい?」 とりあえずギーシュは彼等に話しかけた。 「どうしたんだ、て…負けたんじゃないか。君が。」 「負けた?何の事?」 「『ゼロ』のルイズの使い魔と決闘したんじゃない!忘れたの!?右腕怪我したっていうのに!」 ギーシュは右腕に巻かれている包帯を見てようやく思い出した。ああ、自分の杖が折られて、それで墜落して… 「あの後ギリギリの所で私が『レビテーション』を唱えたの。」 「君が助けてくれたのか。ありがとうモンモ…「御礼より二股したことを謝って欲しいわ。」 そう言うと部屋から出て行った。 「待ってくれよ!愛しのモンモランシー!」 ギーシュがベッドの上で悲痛な悲鳴をあげた。 「相変わらずだな。」 マリコルヌは笑った。 ガチャリ 「ギーシュ!」 「やっと目が覚めたか、小僧。」 ドアが開き、ルイズとポルナレフ(と亀)が入って来た。 「お蔭様でね。」 ギーシュは皮肉っぽく答えたが、ポルナレフは気にする事なく後ろを向き、亀の中から『一輪の花』を取り出した。 「何だい?その花は?」 「これは月桂樹の花だ。俺のいた国では昔、誇り高い男にそれの冠を送る習慣があってな、それに乗っ取ってみた。そういう礼儀もまた趣深いと思ってな。」 そういうと月桂樹の花をギーシュに差し出した。 「薔薇よりこっちの方が今のお前にはずっと似合うと思うぞ。」 「…ありがとう。」ギーシュは少し笑ってそれを受け取った。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1409.html
「桟橋」の階段の先は、一本の巨大な枝に続いている。そこに吊り下げ られている船の甲板にワルドとルイズはいた。ギアッチョは左手に デルフリンガーを握ると、昇降の為に備えられているタラップに眼も くれずそのまま甲板に飛び降りる。着地の衝撃が身体を揺らすが、 「ガンダールヴ」の力はギアッチョにまるで痛みを感じさせなかった。 「便利なもんだな」と呟きながら剣を仕舞う。ワルドに視線を遣ると、 彼は遅いぞと言わんばかりの眼をこちらに向けていた。 「交渉は成功してるんだろーな」 「勿論」 ワルドは杖の先で羽根帽子のつばをついと押し上げ、舳先の方で 船員達に指示を出していた船長に声をかけた。 「船長、もう結構だ 出してくれたまえ」 船長は小ずるい笑みでワルドに一礼すると、船員達に向き直って怒鳴る。 「出港だ!もやいを放て!帆を打て!」 がくんという衝撃と共に船が浮き上がる。ギアッチョは舷側に乗り出して、 興味深そうに地上を見下ろした。ルイズの話では、船体に内臓された 「風石」とやらの力で宙に浮かんでいるのだという。徐々に速度を増して 遠ざかってゆくラ・ロシェールの明かりを眺めて、ギアッチョはキュルケ達の ことを考えた。あの三人とシルフィードなら、引き際を誤らなければ死ぬ ことはないだろう。しかしそう思いつつも、意思に反して彼の心はどこか ざわついている。今日何度目かの舌打ちをして、ギアッチョは去り行く港の 灯りから眼を離した。ボスを裏切って7人散り散りに別れたあの日以来、 こんな気分になることはもうないと思っていた。 どうしてこんな気持ちになる?彼女達が死んだところで自分にどんな不都合が あるというのだろう。暗殺者という軛を外れた彼が否応なく人としての心を 取り戻しつつあることに、ギアッチョは気付けない。 「クソ・・・気分が悪ィ・・・」 自由な片腕で欄干にもたれたまま、ギアッチョは不機嫌な顔で眼を閉じた。 包帯と軟膏を持って、ルイズは少し釈然としない顔で船室から甲板へ戻って きた。怪我人がいるから譲って欲しいと船長に頼んだのだが、薬は高いし 船の上では補充も効かないと言われて二倍以上の金額で買わされたのだった。 しかしまぁそれも仕方ないかなとルイズは思う。身近な国で戦争が起こっている このご時世、平民からすれば少しでも金は欲しいのだろうし、包帯や薬は アルビオンに輸出されて品薄になっているのかも知れない。船長ならちゃんと 船員に金を分け与えるだろうし、貴族としてこのくらいの支出はしなければ。 等と素直に考えている辺り、ルイズはまだまだ純粋な少女であった。 欄干にもたれているギアッチョの元へ、ルイズは足早に歩いて行く。 マストの下で、ワルドと船長が何事か話していた。「攻囲されて・・・」だの 「苦戦中・・・」だのという言葉が聞こえてくる。やはり戦況は芳しくないようだ。 どうやら手紙の所持者、ウェールズ皇太子はまだ生きて戦い続けてはいる らしい。しかしアルビオンの王党派は、もはやいつ全滅してもおかしくない 瀬戸際にいるという。脳裏をよぎった最悪の可能性に首を振って、ルイズは ギアッチョの元へ逃げるように駆け出した。 「左手、出して」 「ああ?」 後ろからかけられた言葉に、ギアッチョは気だるげに振り向く。両手に 包帯と軟膏を抱えてルイズが立っていた。 「包帯巻くのよ」 「・・・オレをミイラ男にでもする気かてめーは」 ギアッチョはじろりと包帯を見る。どっさりと抱えられたそれは、彼女のか細い 両腕から今にも転がり落ちそうだ。 「う・・・あ、明日の分もいるでしょ!そ、それに交換もしなきゃいけないし・・・ あと、えーと・・・・・・ああもう!とにかく左手出しなさいよ!」 「そこに置いとけ 包帯ぐらいてめーで巻ける」 どうでもいいようにそう言って、ギアッチョは再び空に顔を戻した。 ルイズは少しムッとする。わざわざそんな言い方をしなくてもいいではないか。 「左手出しなさいってば!」 ルイズは意固地になって繰り返す。 「てめーで巻けるって言ってるだろーが」 「自分じゃ巻きにくいじゃない!巻いてあげるって言ってるんだから大人しく 聞きなさいよ!」 「いらねーってのが分からねーのかてめーは いいからそこに置け」 「あんたこそ出せって言うのが分からないの!?いいから出しなさい!」 絶対巻いてやるんだから!と躍起になるルイズと全く巻かせる気のない ギアッチョは、一進も一退もしない攻防を続ける。無表情で拒否を繰り返す ギアッチョにいい加減疲れてきたルイズは、はぁと溜息をついて尋ねた。 「もう・・・どうしてそんな意地になるのよ」 借りを作るのは面倒の元だ、と言おうとしてギアッチョはハッとする。 ここはそういう世界ではないのだ。そしてルイズはそんな人間ではない。 進んで手当てをしておいて貸しを作ったなどと、考えすらしないだろう。しかし。 「・・・な、何よ」 ギアッチョはじろりとルイズを見る。 彼にも矜持というものがある。大の男が年端もゆかぬ――しつこいようだが ギアッチョはそう思い込んでいる――少女に包帯を巻かれる等という状況は とても容認出来るものではなかった。そんなギアッチョの心境を感じ取ったのか どうなのか、 「分かったわ・・・じゃあこうしましょう あんたが包帯巻くのをわたしが手伝うわ」 ルイズはそう言って、まるで名案でも思いついたかのようにえっへんと残念な 胸を張った。その拍子に次々と包帯が甲板に落ちて、ルイズは慌ててそれを 拾い集める。そんなルイズを見下ろして、ギアッチョはしょーがねーなと考えた。 借りがどうだと言うのなら、そもそも命を助けられた時点でこれ以上ない借りを 作っているのだ。借りを返すということで我慢してやることにして、ギアッチョは あくまで投げやりに口を開いた。 「・・・勝手にしろ」 「――ッ!」 ギアッチョの左腕を捲り上げて、ルイズは息を呑んだ。仮面の男の雷撃に よって、ギアッチョの左腕は見るも無残に焼け爛れていた。 「ひどい・・・」 ルイズは思わず声を上げるが、 「この程度で騒ぐんじゃあねー」 ギアッチョはことも無げにそう言って、ルイズの腕の中の包帯と軟膏を一つ 無造作に掴み取った。それらをポケットに突っ込むと、ショックを受けている ルイズを放置して船室へと入って行く。船員に言って水を貰い、痛みをこらえて 傷口を洗い流し軟膏を塗りつける。それから包帯を取り上げると、右手と口で 器用にそれを巻いていく。半分ほど巻き終わったところで、 「ひ、一人で何やってんのよあんたはーーーっ!」 ようやく正気を取り戻したルイズが飛び込んで来た。 「も、もうこんなに巻いてるじゃない!わたしも手伝うって言ったでしょ!?」 「だから勝手にしろって言っただろーが 来なかったのはおめーの勝手だ」 しれっと言ってのけるギアッチョに、ルイズの肩がふるふると震える。これは キレたか?と思ったギアッチョだったが、 「・・・何よ 手当てぐらいさせなさいよ・・・」 ルイズの口から出てきたのは、実に弱弱しい言葉だった。少し眼を伏せた 格好で、ルイズは殆ど呟くような声で言う。 「・・・姫様に頼まれたのはわたしなのに、わたしだけが何も出来ないなんて 最低よ・・・ あんたもワルドも、キュルケ達まで戦ってるのにわたしは何も 出来ずに見てるだけなんて、こんなのメイジのやることじゃないわ・・・ 挙句にわたしを庇ってこんな大怪我までされて・・・せめて手当てぐらい しなきゃ、わたし・・・!」 ルイズの言葉は、彼女の悔しさと申し訳なさを如実に物語っていた。 ギアッチョは改めてルイズを見る。俯いて立ち尽くすルイズの拳は、痛い ほどに握り締められていた。 「主人を庇うのが使い魔の仕事なんだろーが」 包帯を巻く手を休めてギアッチョは言うが、その言葉はルイズの傷をえぐる だけだった。 「そうだけど・・・そうだけど違うもん 使い魔だけど、あんたは人間だもん ・・・何よ 何でも出来るからって、どれもこれも一人でやらないでよ・・・ 一つくらい、主人らしいことさせてよ・・・」 ここまで深刻に悩んでいるとは思わなかった。ギアッチョはがしがしと頭を掻く。 ルイズはこう見えて責任感が強い。何も出来ずただ守られているだけの自分を、 彼女は許せないのだろう。 「・・・てめーでやれることをすりゃあいいんだ 拗ねることじゃあねーだろ」 「・・・拗ねてなんかないもん 使い魔の前で拗ねる主人なんていないもん」 拗ねながら落ち込むという若干高度なテクニックを披露するルイズに軽い 頭痛を感じたが、しかし一方でギアッチョにはルイズの無力感が痛いほどよく 分かる。フーケ戦で己の無力を痛感したギアッチョに、今のルイズはどうしても 捨て置けなかった。 自分を誤魔化すようにはぁと溜息をつくと、彼は左手をルイズに突き出した。 「・・・片手でやるのはもう疲れた 後はおめーがやれ 一度やると言ったんだからな、嫌だと言っても巻いてもらうぜ」 その言葉に、ルイズの顔が一瞬ぱぁっと明るくなる。それに気付いてルイズは ぷいっと怒ったように顔を背けて答えた。 「い、言われなくたってやってあげるわよ!しょうがないけど、言ったことは やらなきゃダメだもの ご主人様が直々に手当てしてあげるんだから、 かか、感謝しなさいよね!」 誰が見ても照れ隠しと分かる顔で早口にそう言って、ルイズはギアッチョの 右手から包帯の端をひったくった。手持ち無沙汰になったギアッチョはフンと 鼻を鳴らして眼鏡を押し上げると、何をするでもなく黙り込んだ。 まるで白磁のような手で、ルイズは包帯を巻いてゆく。未だに燃えているかと 錯覚するほどに熱い腕を、その冷たい指で冷ましながら。 たどたどしい手つきではあるが、出来うる限り優しく丁寧に巻こうと苦心している ことが十二分に伝わってくる。良くも悪くも、真っ直ぐな少女だった。 一心不乱に包帯と戦っているルイズを見下ろして、ギアッチョはふと思う。 ペッシを見守るプロシュートは、こんな感じだったのだろうかと。もっとも、 ペッシとルイズの容姿には本当に同じ人間同士かというほどの差はあるのだが。 「おめーも物好きな野郎だな」などと冗談交じりに話していたことを思い出す。 しかしあいつの気持ちが、今なら少し――本当にほんの少しだが、分かるかも 知れない。そのうち地獄でプロシュートに会ったら、「オレもヤキが回ったもんだ」 と言ってやろうかとギアッチョは思う。しかし少なくとも、手紙を回収するまでは そっちには行けそうにない。ならば当面はプロシュートに学ぼうかと彼は考えて みた。あんな時こんな時、あいつはどう説教していただろうか、どうフォローして いただろうか。「何でオレはこんなことをバカみてーに考えてんだ」と心中毒づき ながらも、ギアッチョはプロシュートの偉大さを痛感した。ギアッチョが覚えている だけでも、プロシュートは結構な回数ペッシをブン殴っていた。にも関わらず、 ペッシはプロシュートを変わらず「兄貴」と慕っていたのである。 ――カリスマってヤツか? いや、それはリゾットだろうか。まあどの道、とギアッチョは結考える。どの道 自分にプロシュートのような真似は出来ない。特に額に額を当てる彼の得意技 など、ギアッチョがやれば恫喝にしか見えないだろう。 オレはオレで適当にやらせてもらうとしようと結論づけて、ギアッチョは己の 左腕に眼を落とす。包帯は既にその大部分を包んでいた。 ついでにプロシュートはこの状況ならどうするだろうかと考えてみる。 「『手当てした』なら使ってもいいッ!」と真顔で言うプロシュートが何故か思い 浮かんで、ギアッチョは思わず口の端がつり上がった。そんなギアッチョと偶然 眼が合って、彼の笑みをどう解釈したものか、ルイズは少し顔を赤らめて眼を 逸らした。